温暖化により欧州でのオゾン前駆物質の排出削減の努力が無駄になる可能性
Nature Communications
2017年7月26日
全球の気温が21世紀中盤に産業革命前と比べて摂氏3度上昇してしまうと、ヨーロッパでのオゾン汚染減少を目指した努力が水の泡となる可能性のあることが、今週発表されるモデル研究によって示唆されている。
ヨーロッパではオゾン汚染が今でも重要な環境問題となっているが、現行の大気汚染防止法制の実施によってオゾン前駆物質の排出量の大幅な削減が予想されている。ところが、オゾン汚染は、気温の上昇によっても悪化する可能性がある。
今回、Audrey Fortems-Cheineyたちの研究グループは、地域的化学輸送モデルを用いて、気温が産業革命前と比べて摂氏2度または3度上昇することがヨーロッパにおけるオゾンの表面濃度に及ぼす影響をいろいろな緩和シナリオに基づいて調べた。温室効果ガス排出量が削減されないシナリオ(RCP8.5シナリオ)では、全球の気温が2040~2069年に摂氏3度上昇すると予測され、ある程度の緩和措置が実施されるシナリオ(RCP4.5シナリオ)では、全球の気温が2028~2057年に摂氏2度上昇すると予測されているが、この地域的化学輸送モデルを用いると、気温が摂氏3度上昇した場合にオゾン濃度が8%高くなることが明らかになった。この濃度差の原因について、Fortems-Cheineyたちは、RCP8.5シナリオでヨーロッパの境界付近のメタン濃度が高いためにオゾン濃度が上昇することを挙げている。
今回のモデル研究では、緩和措置が実施されないシナリオでのオゾン濃度と21世紀中盤に気温が摂氏3度上昇することによりオゾン前駆物質の排出規制によるオゾン濃度の低下が帳消しになるだけでなく、オゾン濃度が上昇してしまう可能性のあることが示唆されている。この新知見は、メタン濃度の全球的低下を実現するための政策だけでなく、地域的な排出規制の実施も必要なことを明らかにしている。ただしFortems-Cheineyたちは、以上の予測が特定の地域と気候シナリオに関するものであり、これとは別の汚染物質排出や気温のシナリオを用いることでオゾン濃度上昇の予測が変化する可能性のあることも指摘している。
doi:10.1038/s41467-017-00075-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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