無神論者でさえ、「モラルのない人はおそらく無神論者である」と直感的に推測する
Nature Human Behaviour
2017年8月8日
信仰心の厚い人も神の存在を信じない無神論者も、連続殺人などの極度に不道徳な行為を犯す者はおそらく無神論者だろうと直感的に推定することが、今週オンライン版に掲載される論文で報告される。研究では、無神論者に対するこうした偏見が、対象とされた13の宗教的な国および世俗的な国の大半で認められることが明らかとなった。この結果は、多くの国であからさまな宗教性が否定されつつある状況であっても、長年に及ぶ人類の宗教経験が、「道徳性には信仰が必要である」という払拭しがたい思考を強めてきたことを示唆している。
Will Gervaisの研究チームは、宗教性の非常に強い社会(アラブ首長国連邦やインド)から世俗性の非常に強い社会(中国やオランダ)まで、5大陸13か国の3000人を対象に、不道徳な行為と無神論を結びつける認識について調べた。無神論者に対する偏見の程度を定量化するために、研究チームは調査参加者たちに、動物への虐待が高じてスリルを求めて殺人に及ぶ〈モラルに反する人物〉について書かれた文章を読ませた。そして参加者の半数に対しては、罪を犯したその人物が(1)「教師である」か、または(2)「宗教心のある教師である」のどちらである可能性が高いかを尋ねた。また残りの半数には、(1)「教師である」か、または(2)「神の存在を信じない教師である」のどちらである可能性が高いかを尋ねた。そして研究チームは、各群の回答者がどれほどの頻度で(2)より(1)を選択したかを測定した。
その結果、参加者は極端な不道徳性を、信仰者の指標としてよりも、無神論者の指標としてほぼ2倍多く見なしていること(フィンランドと、程度は低いもののニュージーランドの2か国を除く)、そして自身を無神論者と認める参加者たちも、無神論者に対して同様の偏見を抱いていることが明らかとなった。今回の研究から、無神論者に対する道徳上の直感的な疑念は、普遍的とまでは言えないにしても、文化の壁を越えて広く認められ、世俗的および宗教的な社会を問わず、さらには信仰者の間にも無神論者の間にも認められることが判明した。また、宗教と道徳性の関係をめぐる科学的および一般的な認識にはかなりの多様性があることも分かった。今回の研究は、中心となる道徳的直感は宗教とほぼ無関係に現れたようであるものの、道徳性と宗教の間には避けがたい結びつきがあるとする一般的な見方は非常に根強いことを示唆している。
doi:10.1038/s41562-017-0151
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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