【微生物学】中世の羊皮紙巻物についた紫色のシミの原因
Scientific Reports
2017年9月8日
13世紀の羊皮紙の巻物に生じた紫色のシミの原因微生物が見つかったことを報告するLuciana Miglioreたちの論文が、今週掲載される。古い羊皮紙文書は微生物に侵されることが多く、その結果として紫色のシミが生じ、羊皮紙の表層がはがれて、文書の可読性が損なわれる。Miglioreたちは、今回の研究で得た新知見が古い羊皮紙文書の修復と保全に役立てられることを期待している。
A. A. Arm. I-XVIII 3328は、西暦1244年に列聖調査のために作成された長さ5 mの羊皮紙文書で、男を誤って殺してしまったLaurentius Loricatusという名の若い兵士の話が記されている(列聖とは、信仰心の厚い教徒などを聖人として認定すること)。この兵士は、罪を償うため、その後34年間にわたってスビアコ(イタリア)近くの洞窟に引きこもった。ところが、この羊皮紙文書は紫色のシミに覆いつくされ、羊皮紙のコラーゲン構造が損傷し、文書の可読性が著しく損なわれている。この羊皮紙の損傷は、この巻物が18世紀末にバチカン秘密文書館に移される前に生じた可能性が非常に高い。現在、この巻物は、管理された環境条件下で保管されている。
今回、Miglioreたちは、この羊皮紙の巻物に棲みついている微生物群集の遺伝的解析を行った。その結果、紫色のシミからガンマプロテオバクテリアが検出されたが、シミのない部分からは検出されなかった。Miglioreたちは、この羊皮紙の劣化が微生物遷移の過程で起こったと考えられ、つまり、紫色のシミを作り出すロドプシンを産生する好塩性細菌がガンマプロテオバクテリアに置き換わり、紫色のシミだけが残ったという仮説を示している。また、Miglioreたちは、今後の研究の積み重ねが、紫色のシミの原因であるロドプシンを産生する微生物の正確な塩基配列の解明に役立ち、このように損傷した文書の修復に役立つ新しい方法の発見につながる可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41598-017-05398-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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