【ゲノミクス】全てのヒト組織における遺伝子の活性を解読する
Nature
2017年10月12日
遺伝子発現について、さまざまな人体組織間の差異と個人差を示す包括的なアトラスを明らかにした一連の論文が、今週NatureとNature Geneticsに掲載される。これらの論文に示された新知見は、健常組織における遺伝的多様性と遺伝子発現の関連を洞察するための新たな手掛かりをもたらしており、各種疾患の分子的起源に関する新たなヒントとなる可能性もある。
ヒトゲノムには、遺伝子発現調節の指令がコードされているが、遺伝子発現調節は、細胞の種類によって異なっており、その結果、それぞれ独自の機能を持つ多様な組織が生じているのだが、遺伝子発現調節には個人差もある。こうした差異を生じさせる遺伝的バリアントは、ゲノムの非コード領域内に位置している傾向があり、この非コード領域が遺伝子の発現状態と発現時期を決めていると考えられている。しかし、遺伝子調節と遺伝子発現のヒト組織間の差異と個人差を詳しく調べる研究は、これまで限定的にしか行われていなかった。
GTEx(Genotype-Tissue Expression)コンソーシアムは、449人の健常ドナーから44組織(42種類の組織)の7000点以上の死後検体を収集して研究を行った。今回、このコンソーシアムの研究チームは、こうした死後検体(31点の固形臓器組織、10点の脳内小領域、全血、ドナーの血液と皮膚に由来する2つの細胞株が含まれる)を用いて、遺伝子発現の組織間差異と個人間差異を調べた。この研究では、発現量的形質座位(eQTL)マッピングという方法を用い、ヒト遺伝子の大半がその近くに存在する遺伝子変異の影響を受けており、そのため遺伝的バリアントは、その影響を受ける遺伝子の近くに位置していることが明らかになり、それよりも遠い位置にある(例えば、別の染色体上にある)遺伝的バリアントの影響を受ける93個の遺伝子も見つかった。この研究成果を報告する論文が、今週Natureに掲載される。
Natureに同時掲載される別の論文では、遺伝子発現におけるまれなバリアントの役割を調べた結果が報告されており、これとは別の2編の論文では、GTExのデータを用いて、RNA編集とX染色体不活性化の現象が、遺伝子発現と関連する遺伝的バリアントによってどのように調節されるのかを調べた結果が示されている。また、これらの論文と関連したNature GeneticsのCommentaryでは、GTExプロジェクトを拡張して、遺伝的な差異が分子表現型を介してヒトの健康に連鎖反応的な影響を及ぼす過程を研究するための情報資源を提供することを目的とするEnhancing GTExプロジェクトが紹介されている。
以上の新知見を総合すると、ヒトの疾患に関連する遺伝的多様性の基盤となる遺伝子と機構を解明することを目的とした研究で収集された多数の個人と生体組織に由来するデータが貴重なことが強調されていることが分かる。同時掲載のMichelle WardとYoav GiladのNews & Viewsには以下のように記されている。「この研究では、死後検体の入手に伴う倫理的、法的、技術的課題を克服するための一致団結した共同作業が行われた。 <中略> 今回GTExコンソーシアムが作成した詳細なカタログによって、ゲノムの調節コードの解読に一歩近づいた。遺伝的多様性が遺伝子発現に及ぼす影響が徐々に解明されてきている」。
doi:10.1038/nature24041
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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