【持続可能性】有機農業で全世界の人々に食料を供給できるか
Nature Communications
2017年11月15日
有機農業に転換すると、世界の食料需要を持続的に満たすことが可能になるが、そのためには食物廃棄と食肉生産の減少が必要条件であることを示唆する論文が、今週掲載される。この新知見は、モデルシミュレーションに基づいているが、こうした変化が現実世界で起こると、有機農法の導入率と経済的実用性の地域差に応じて、結果にばらつきが生じる可能性がある。
有機農業は、これまでの慣行農業より環境にやさしいと考えられているが、農地への転換をさらに進めなければ、人間の食料需要を充足できない可能性がある。今回、Adrian Mullerたちの研究グループは、有機農業によって全世界の人々に食料を供給することが実現可能なのかどうかを評価するため、2050年の世界人口を90億人とし、さまざまな気候変動シナリオを用いてシミュレーションを実施した。Mullerたちのモデルでは、有機農業に完全に転換した上で、全世界の食料需要を満たすには、現在よりも農地面積を16~33%増やす必要があるという予測が示された。一方、新たな農地への転換をせずに有機農業への完全転換を実現するには、食物廃棄を50%削減し、食用作物向け耕地で飼料用作物の生産をやめることが必要だと考えられている。このシナリオでは、食事性タンパク質において動物性製品の占める割合が38%から11%に低下する。
持続可能な食料システムを実現するには、生産面だけに着目するのではなく、食物廃棄、作物・牧草・家畜の相互依存性、人間による農産物の消費にも取り組む必要がある、とMullerたちは結論付けている。
doi:10.1038/s41467-017-01410-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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