【生物工学】細胞を用いたホルモン補充療法がラットに効いた
Nature Communications
2017年12月6日
薬物によるホルモン補充療法(pHRT)に代わる細胞によるホルモン補充療法が、齧歯類の研究によって報告された。この新しいホルモン補充療法では、生物工学的に作製された3D卵巣構築物を用いて性ホルモンの投与と調節が行われるが、pHRTより有害な副作用が少なく、pHRTと同等の効果が得られる。この研究結果の詳細が記述された論文が、今週掲載される。
ホルモン補充療法は、閉経前後以降の女性だけでなく、卵巣に影響を及ぼす治療を受けたがん患者のための治療法でもある。現在のところ、pHRTに伴う血中ホルモン濃度上昇の副作用が治療効果を上回ると考えられているため、いろいろなタイプのホルモン補充療法が必要とされている。pHRTに代わる治療法として提案されているのが細胞療法で、薬剤療法より多くの治療効果が得られることが理由となっている。細胞は、生理的レベルで2種類以上のホルモンを分泌し、脳にシグナルを送ることができるため、十分に機能する卵巣の役割を模倣できるのだ。
今回、Emmanuel Oparaたちの研究グループは、生物工学的に作製された3D卵巣構築物に2種類の卵巣細胞(顆粒膜細胞と莢膜細胞)を封入し、卵巣を摘出されたラットに移植した。90日の研究期間中、移植された卵巣構築物は、自然に起こる細胞間相互作用を再現し、低濃度のホルモン(主にエストロゲンとプロゲステロン)を安定的に産生した。この卵巣構築物は、ホルモン欠乏状態や卵巣の喪失に通常伴う副作用(骨密度、体重又は子宮の健康状態の変化)を緩和することも明らかになった。
この論文は、細胞と生物工学的に作製された3D卵巣構築物を用いた治療法をラットモデルに適用することで卵巣を模倣する作用を生み出し、低濃度ではあるが十分な濃度のホルモンを産生できることを明らかにした原理証明論文である。今回の研究は動物の研究だったため、臨床応用の可能性を現実化するためには広範な研究を積み重ねていく必要がある。
doi:10.1038/s41467-017-01851-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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