【遺伝子治療】ヒトの難聴のマウスモデルにおける聴力回復
Nature
2017年12月21日
CRISPR-Cas9法によるゲノム編集の実験で、ヒトの遺伝性難聴のマウスモデルの聴力が回復したことを報告する論文が、今週掲載される。今回の研究では、優性遺伝性難聴疾患の一部について、CRISPR-Cas9法が有望な治療法となる可能性が明確になった。
難聴症例のほぼ半数で遺伝的要因が一因となっているが、遺伝性難聴の治療法は限られている。今回、David Liuたちの研究グループは、脂質に封入されたCas9ガイドRNA複合体を設計して、ヒトの難聴のマウスモデルにおいて難聴を引き起こす遺伝子変異を特異的に狙い撃ちさせた。
Liuたちは、このCRISPR-Cas9系を用いて、難聴を引き起こす変異遺伝子の機能を停止させることができ、この変異遺伝子と健全な遺伝子が1塩基対だけ異なっていることを明らかにした。次に、Cas9ガイドRNA複合体を新生仔マウスの蝸牛に注入する実験が行われ、進行性難聴が大きく軽減されることがわかった。また、この複合体が注入された耳は、この複合体が注入されなかった耳や無関係な遺伝子を標的とする複合体が注入された耳と比べて、有毛細胞の生存率が高く、聴性脳幹反応の閾値が低かった。さらに複合体が注入されたマウスは、注入されなかったマウスよりも音響反射反応が優れていた。
Liuたちは、このゲノム編集法が、特定の遺伝性難聴疾患に対するDNAとウイルスを用いない1回限りの治療法の将来的な開発に役立つ可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/nature25164
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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