いったん開始した太陽放射管理を停止するのは危険すぎる
Nature Ecology & Evolution
2018年1月23日
太陽放射管理は、気候変動の物理学的影響を緩和する潜在的手段であるが、これをいったん実施してから停止した場合に生物多様性に及ぶ影響は、気候変動そのものによる影響よりも深刻なものとなるが可能性があることを明らかにした論文が、今週掲載される。
大気中の二酸化炭素の大規模な除去と、エーロゾルによる太陽光の宇宙空間への反射(太陽放射管理)は、パリ協定で設定された2℃の温度目標の達成を目的に、温室効果ガス排出の影響を抑制するための潜在的戦略として提案されている。
Christopher Trisosたちは、太陽放射管理の実施とその後の突然の停止が世界の生物多様性に与え得る影響を調べた。研究チームは、2020~2070年に太陽放射管理が行われる気候シナリオと、太陽放射管理が行われない中間的排出量のシナリオとで、温度と降水量の変化を比較した。その結果、太陽放射管理の急激な実施による生物多様性への影響は、好影響と悪影響が入り交じったものとなるが、その突然の停止が引き起こす局地的な気候の変化は、気候変動そのものが引き起こす変化の2~4倍も急激なものとなることが明らかになった。多くの場合、急激な太陽放射管理は、生物種に対して、同等の温度条件を維持する方向への移動と、同等の降水条件のための別方向への移動を強いることにより、生態系を脅かすことが分かった。熱帯の海洋やアマゾン盆地など、生物多様性が豊かな地域は、特に悪影響を受ける可能性が高い。
今回の結果は、太陽放射管理、および特にその急激な停止が、生物多様性の不可逆的な低下を引き起こす可能性があることを示している。関連するNews & Views記事の中で、Phil Williamsonは、太陽放射管理が政治的議論の対象となっていることから、その急激な開始や停止が行われる蓋然性は極めて高いと述べている。負の排出も、バイオエネルギーに土地が必要となるため、生物多様性に影響を及ぼす可能性があり、Williamsonは、種の絶滅を回避するためにはさらに野心的な排出削減が必要であると主張している。
doi:10.1038/s41559-017-0431-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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