氷河の質量減少が周辺地域の水資源に及ぼす影響
Nature Climate Change
2018年1月23日
全世界で起こっている氷河の融解によって下流の水資源が減少すると予測され、氷に覆われた表面の占める割合が小さい集水域にも同じ予測が当てはまることを報告する論文が、今週掲載される。
氷河の後退とそれに伴う氷河流出量の将来変化は、全球の水資源の持続可能性に対する重大な懸念を生み出している。しかし、氷河の質量減少とその結果としての水文的影響を全球規模で評価した研究は非常に少ない。
今回、Matthias HussとRegina Hockは、氷河の作用でできた大規模集水域56カ所(グリーンランドと南極を除く)の全てについて2100年までの月間と年間の氷河流出量の推移を調べた。その結果、研究対象となった集水域の45%(相対的に小規模な氷河によってできた集水域)で、年間流出量が既に最大値(「最高水位」)を過ぎて、徐々に減少していることが判明した。その他の集水域(氷に覆われた表面の占める割合が大きく、相対的に大規模な氷河によってできた集水域)では、今後、最高水位に達すると予測され、総氷河体積の減少率は、低排出シナリオで43±14%、高排出シナリオで74±11%と予測された。氷河の後退に伴う氷河流出量の将来変化には変動があり、最高水位に達するまでの平均増加率は26%(低排出シナリオ)と36%(高排出シナリオ)と予測され、2050年以降も氷河流出量が増加することが予測された集水域は全体の22%だった。
HussとHockは、氷河流出量の月ごとの変動を調べたが、それは、この変動が周辺地域の水資源に影響を及ぼすからだった。そして、HussとHockは、集水域の3分の1において、21世紀末までに融氷期の1カ月以上で氷河流出量の減少率が10%以上になる可能性があり、中央アジアとアンデス山脈で減少率が高いことを明らかにした。以上の新知見は、氷河の質量減少が継続すると氷河付近の地域の水資源が大きな影響を受ける可能性のあることを明確に示している。
doi:10.1038/s41558-017-0049-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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