【神経科学】成人になると海馬でのニューロン新生が止まる
Nature
2018年3月8日
人間の場合には、成長に伴って脳の海馬でのニューロン新生が減り、成年に達すると完全に停止することを報告する論文が、今週掲載される。
ニューロンは電気インパルスを伝える細胞で、海馬内でのニューロン新生は、記憶、気分、ストレス、運動、神経疾患と関連する過程だと考えられている。一部の哺乳類では、成体になっても海馬でのニューロン新生は続き、これまでの研究では、人間の場合も海馬でのニューロン新生が成人期まで続くことが示唆されていた。ニューロン新生の研究は、学習過程、情緒障害、および神経変性疾患の理解を前進させる可能性があると考えられてきた。
これに対して、今回のArturo Alvarez-Buyllaたちの研究では、ニューロン新生がこれまで考えられていたほど長くは続かないことが示唆されている。この研究では、胎児から成人までのさまざまな年齢の被験者から合計59点の脳組織検体を採取し、マーカー抗体を使って、神経前駆細胞と未成熟なニューロンを同定した。また、ニューロン新生は、若年期に起こるが、被験者の加齢に伴いニューロン新生率が急速に低下することも明らかになった。発生中のニューロンを含む検体で最年長のものは、13歳の被験者から提供されたものだった。Alvarez-Buyllaたちは、動物でこれらのニューロンを標識するのに使用されてきたタンパク質が人間では同様に働かないことから、未成熟なニューロンの検出において過去の研究報告に誤りがあったのではないか、という考えを示している。
同時掲載されるJason SnyderのNews & Viewsでは、今回の人間を対象とした研究結果が、動物を対象とした類似の研究結果(齧歯類のニューロン新生も中年期に減少した)と矛盾しない点が指摘されている。Snyderは、「もし齧歯類を使った研究の重点が、加齢によってニューロン新生が減少する機構と、ニューロン新生を増強して加齢や疾患による病変を緩和する機構の解明に移れば、論文著者が突きつけた厳しい研究結果を人間の健康を増進させる発見につなげられるかもしれない」と結論付けている。
doi:10.1038/nature25975
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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