【神経科学】マウスの神経疾患の進行に影響を及ぼす脳の免疫記憶
Nature
2018年4月12日
体内の免疫応答は、免疫記憶を通じて、後年に発症する脳疾患の重症度に影響を及ぼすことがマウスの研究で明らかになったことを報告する論文が、今週掲載される。
自然免疫系は、感染の「記憶」を何か月も保持でき、その後の免疫応答を変化させる。免疫記憶には訓練(免疫応答が増強されて再感染に対抗する)と寛容(連続的な曝露によって免疫応答を抑制する)の2つの形式がある。体内で炎症が生じると脳内で免疫応答が起こるという理解は確立されているが、脳の自然免疫細胞であるミクログリアに免疫記憶が生じるのかどうかは分かっていない。ミクログリアはアルツハイマー病や脳卒中などの疾患に影響を及ぼすため、ミクログリアの応答を操作する可能性に対しては大きな関心が集まっている。また、ミクログリアは、極めて寿命が長く、永久的ではないにせよ極めて長期間存続する可能性があるため、その修飾が可能かもしれない。
今回、Jonas Neherたちの研究グループは、アルツハイマー病のマウスモデルの体内に細菌の構成要素であるリポ多糖を注射したところ、アルツハイマー病の特徴である脳内でのアミロイドβタンパク質の蓄積が観察されたことを明らかにした。ミクログリアはアミロイド斑によって活性化され、アミロイドβを摂取して廃棄処理すると考えられている。リポ多糖を1回注射したところ、ミクログリアの訓練免疫応答が観察され、6か月後には、このマウスにおけるアミロイドβの蓄積量は、リポ多糖を注射していない対照マウスよりも多かった。これに対してリポ多糖を4回注射した場合には、免疫寛容が生じてアミロイドβの蓄積量が減り、免疫寛容によって脳卒中発症後のニューロン損傷が減ったことも明らかになった。こうした過程を利用することが、神経疾患を軽減するための新たな方法となる可能性がある。
doi:10.1038/s41586-018-0023-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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