【生体力学】クモの粘着物質は湿潤環境下でも粘着性を維持する
Nature Communications
2018年5月23日
クモが分泌する粘着物質が、湿潤条件下でも物体表面に粘着できる機構を解明したことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、そうした環境で使用できる新しい接着システムの開発に着想を与える可能性がある。
生物学の世界には多湿条件下で確実に作用する接着システムが数多く存在している。例えばクモ類は、多湿または多雨な生息地で、粘着剤タイプの物質を使って獲物の狩猟や捕獲を行う。湿潤環境中で粘着力を確保するためには、湿度によって形態や構造を変化させられる特殊な分子を利用することが有効である。ただし、クモの粘着物質の効果が多湿条件下で持続する正確な機構は解明されていない。
今回、Ali Dhinojwalaたちの研究グループは、コガネグモ科のクモの聚状腺から分泌される粘着物質がサファイアの表面に粘着する機構を調べて、湿潤条件下の粘着機構を解明した。Dhinojwalaたちは、分光学的手法の1種である和周波発生分光法を用いて、粘着物質の主成分が糖タンパク質(アミノ酸と糖分子からなるタンパク質)であり、その構造が湿潤条件下で変化することを明らかにした。糖タンパク質は、水分の存在下で粘着力が高まるように折りたたまれるのだ。また、クモの粘着物質中には、親水性低分子も至る所に見られる。これらの低分子は、通常は基質と粘着物質の界面を覆って粘着力を損ねている自由水を隔離する。
Dhinojwalaたちは、この機構の解明によって湿潤環境下での粘着性能の改善が促進され、接着不良を減少できる可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41467-018-04263-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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