【気候科学】パリ協定の気候変動緩和目標の達成でかなりの経済的便益が生じる可能性
Nature
2018年5月24日
2100年の全球平均温度を産業革命以前と比べて摂氏2度ではなく、摂氏1.5度の上昇に抑えることによる、全球および国別の経済的影響を定量化したことを報告する論文が、今週掲載される。今回の研究では、21世紀末に、より一般的な摂氏2度ではなく、摂氏1.5度という目標を達成すれば、相当な経済的便益が得られそうであり、20兆ドル(約2200兆円)の節約になる可能性があることが示唆されている。
地球温暖化を産業革命以前と比べて摂氏1.5度の気温上昇に抑えるというパリ協定の野心的な気候変動緩和目標を達成するためには、気候変動緩和策に多額の投資が必要になる。そのため、目標達成によって生じる可能性のある経済的便益を理解することは、目標達成に向けて行動すべきか否か、そして、どのようにして目標を達成するのかを決定する際の情報として必要だ。
今回、Marshall Burkeたちの研究グループは、過去のデータを国内レベルの気候予測および社会経済予測と組み合わせて、今後のさまざまなレベルの温暖化に伴う経済的損害を評価した。その結果、21世紀末までに気温上昇を摂氏1.5度に抑えられた場合には、摂氏2度の場合と比べて全球的な経済的損害が少なくなる確率が75%であり、全球的な経済的便益が20兆ドルを超える確率が60%とされた。また、Burkeたちは、世界人口の90%に相当する全世界の国々の71%(3大経済大国の米国、中国、日本を含む)で気温上昇を摂氏1.5度に抑えられた場合、経済的損害が少なくなる確率が75%で、貧困国で経済的便益が最も大きくなることを明らかにした。
Burkeたちは、この研究方法にさまざまな不確実要因があり、極端事象(例えば、大規模な海面上昇)や経済成長率の急激な変化などの要因が気候温暖化の影響を左右する可能性がある点に注意を喚起している。それでも、今回の研究で得られた知見は、摂氏1.5度という目標が達成されれば経済的損害が少なくなる可能性が高く、一方で、摂氏2度という目標が達成されない場合には経済的損害が大きく増加し、世界経済の生産高の15%を超えることもあり得ると示唆している。
doi:10.1038/s41586-018-0071-9
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