妊娠中にストレスを受けた母マウスから仔に影響が及ぶ過程における母の膣内微生物の位置付け
Nature Neuroscience
2018年7月10日
帝王切開で生まれた雄の新生仔マウスが、ストレスを受けた雌のマウスの膣内微生物にさらされた場合に、母親の体内でストレスを受けた雄の仔マウスに見られる生理状態の変化に一部類似した変化が観察されたことを報告する論文が、今週掲載される。この研究知見は、母体のストレスが発生に与える影響に関する理解の進展に道を開く可能性がある。
母体の膣液中に存在する微生物は、出生時に仔マウスの腸内に定着し、この腸内マイクロバイオームの組成が、その後に受けるストレスに対する仔の脳の応答に影響を及ぼす。マウスの場合には、出産前のストレスが母親の膣内微生物相を変化させ、雄の仔の出生後の脳機能に影響を及ぼすことが知られているが、この影響が微生物叢の変化の結果なのかどうかは明確になっていない。
今回、Tracy Baleたちの研究グループは、ストレスを受けた妊娠マウスとストレスを受けていない妊娠マウスの膣液中の微生物を、帝王切開で生まれた直後の雄のマウス(出生前ストレスを受けたものと受けていないものの両方)に移植した。その結果、子宮内でストレスにさらされた仔マウスとストレスを受けた母親の微生物相に出生時にさらされた仔マウスは、体重、腸内微生物相、ストレスホルモン濃度について、他のマウスと差があることが分かった。Baleたちは、この影響の一部が、ストレスを受けていない雄の新生仔マウスの雄にストレスを受けた母親の膣内微生物を移植することで再現できることを明らかにした。これに対して、ストレスを受けていない母親に由来する微生物を移植しても、子宮内でストレスにさらされた仔に生じた影響を解消できなかった。このマウスの研究で得られた知見は、母親が妊娠中に受けたストレスが、出生前の仔に直接的に影響を及ぼすとともに、母親の膣内微生物相の変化によって間接的に影響を及ぼすことも示している。ヒトの場合、妊娠中の母親がストレスを受けることは、子の精神疾患のリスク因子だが、このリスクが膣内微生物叢による影響なのかは明らかでない。
doi:10.1038/s41593-018-0182-5
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