【進化】ハリケーンによるトカゲの自然選択が実際に観察された
Nature
2018年7月26日
木の枝に上手にしがみつけるトカゲ類の方がハリケーンを生き延びる可能性が高い、という自然選択が実際に働いた事例について報告する論文が、今週掲載される。
ハリケーンなどの自然災害は、生態系に壊滅的影響を及ぼし、大規模な死をもたらす。しかし、ハリケーンによる死が無差別に生じるのか、もしくはハリケーンによってある種の身体的特性(例えば、強風に耐える能力)が優先的に選択されるのかは、明らかになっていない。
今回、Colin Donihueたちの研究グループは、西インド諸島のパインケイ島とウォーターケイ島という2つの隣接する島で、体の小さなアノールトカゲ(Anolis scriptus)の個体群の研究を終えた直後に、偶然にも2つのハリケーン(イルマとマリア)の上陸という予想外の事態に遭遇した。これはハリケーンの直接的な影響を調べるめったにない機会であったため、Donihueたちは、ハリケーンが過ぎ去った後に現地に戻ってフォローアップ調査を行った。そして、それぞれの島の個体群について、ハリケーンの前後で肢の長さと指先裏のパッド表面積がどのように変化したのかを調べた。この2つの測定項目は、いずれもアノールトカゲのしがみつき能力に影響を及ぼし、生息地の利用状況と歩行運動様式に関係があると考えられている。これら2つの島でハリケーンを生き延びたアノールトカゲの個体群は、ハリケーンの前と比べて、指先裏のパッドの表面積が有意に増加し、平均的に前肢は長く、後肢は短くなっていた。
また、Donihueたちは、A. scriptusの指先裏のパッドの表面積としがみつき能力が関連していることを確認し、ハリケーンの強風にさらされたアノールトカゲを動画撮影して、どのように木の枝にしがみつくのかを説明している。強風になびいている時の姿勢から、Donihueたちは、前肢が長い方が木の枝をしっかりとつかめるが、後肢が長いと強風が当たる表面積が増すため不利になる、という考えを示している。
Donihueたちは、今後数十年間に極端な気候事象の頻度と強度の高まりが予想されることから、進化動態を解明する際には、このような特定の深刻な気候事象を考慮に入れる必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-018-0352-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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