【生態学】2016年の白化事象によってサンゴ礁群集に生じた変化
Nature
2018年7月26日
2016年にオーストラリアのグレートバリアリーフとサンゴ海全体で発生した大量白化事象はサンゴ礁に依存する海洋群集に急激な地域スケールの変化を引き起こしたことを報告する論文が、今週掲載される。今回の研究では、南側のサンゴ礁の魚類群集構造が北側の魚類群集構造に近くなり、無脊椎動物群集も大きく変化したことが明らかになった。
今回、Rick Stuart-Smithたちの研究グループは、2016年の大量白化事象以後のサンゴ、藻類、魚類、および移動性無脊椎動物(ウニなど)の生態系の変化を調査した。大量白化事象の前(2010~2015年)と後(白化事象の8~12カ月後)のデータを使って、グレートバリアリーフ沿いとサンゴ海のサンゴ礁地帯の計186カ所を調査した結果、このうち44カ所で、生きているサンゴの被度が10%以上減少し、北側のサンゴ海ではサンゴ礁が最も一貫して失われていたことが分かった。そして、最も被害の大きかったサンゴ礁では、サンゴを餌とする魚類が明白に減少していた。
ただし、Stuart-Smithたちは、地域全体にわたる生態系の変化は、サンゴの喪失とほとんど無関係に起こったことであり、むしろ海面水温と直接関連しているようだという考えを示している。また、Stuart-Smithたちは、全群集規模の栄養構造の再構築が起こり、魚類、無脊椎動物、およびその機能群の多様性における既存の緯度勾配が弱体化していることを示す証拠を発見した。例えば、北側のサンゴ礁では在来種の魚の個体数が減少し、南側のサンゴ礁では小型の隠蔽種の魚の個体数が増加した。
Stuart-Smithたちは、以上の観察結果に基づいて、サンゴ礁の回復過程とその影響の規模にはいまだ不確かさが残ると結論している。白化したサンゴ礁の軌跡は、この新しい群集構造の影響を大きく受けるものと考えられる。今回の研究で観察された新しい群集構造は、温暖化に関連したサンゴ礁群集の再編成と関連している。
doi:10.1038/s41586-018-0359-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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