【気候科学】過去のデータが示唆する海流の変化による氷河深部の融解
Scientific Reports
2018年8月10日
メキシコ湾流を含む海流系である大西洋の南北方向の鉛直循環(AMOC)が1万3000~1万1500年前(ヤンガードライアス期)にグリーンランド氷床に及ぼした影響を評価した結果について報告する論文が、今週掲載される。この研究知見からは、ヤンガードライアス期に起こったAMOCの変化(この時期には大気温度と海面水温が最大で摂氏10度低下したと考えられる)によって深海が温暖化し、グリーンランド南東部の北極氷河の浸食が進んで、北大西洋への淡水の注入が増加した可能性のあることが示唆されている。
北極氷河は、2200年までの海水準上昇のうち19~30ミリメートルに関与すると予測されている。しかし、この予測では、海面下で氷河に影響を及ぼす可能性のある海洋学的変化が考慮されていない。今回、Eleanor Rainsleyたちの研究グループは、堆積物データに基づいたコンピューターモデリングによって、ヤンガードライアス期におけるグリーンランド氷床とAMOCの相互作用を再構築した。その結果、ヤンガードライアス期にヨーロッパの大陸性氷河が急激に成長したが、海洋性氷河の質量はかなり減少したことが明らかになった。この氷河質量の減少は、海面水温が低かったにもかかわらず、比較的高温で塩分濃度の高い海面下の海流が強まったことで生じた可能性が示されている。この研究知見は、ヤンガードライアス期のグリーンランド南部において、大気温度より海洋循環の方が重要だったという仮説を裏付けている。
Rainsleyたちは、将来的にグリーンランド氷床の融解水が北大西洋循環に影響を及ぼし、海面水温が上昇して、海洋性氷河の侵食が進み、北大西洋へのさらなる淡水注入が起こる可能性があると考えている。この研究知見は、海面上昇の将来予測においては、大気の変化とともに海洋学的変化を考慮に入れることの重要性をはっきりと示している。
doi:10.1038/s41598-018-29226-8
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