【生態学】人工構造物が絶滅危惧種のサンゴの繁殖に役立つかもしれない
Scientific Reports
2018年8月17日
海洋上の人工構造物(原油掘削施設、ガス掘削施設、難破船、再生可能エネルギー設備など)は、人間からの圧力と気候変動の脅威にさらされている生物種集団同士を結び付け、それらの生き残りのチャンスを高める可能性があることを明らかにしたモデル研究について報告する論文が、今週掲載される。
人工構造物が世界のさまざまな海洋で増えていることで、侵入種の蔓延を促進するなど、海洋生態系にさまざまな悪影響がもたらされる可能性がある。しかし、こうした人工構造物が、絶滅危惧種の新たな生息地や採餌場となり、地理的分布域を広げることで保全に役立つ可能性があるかどうかはあまり解明が進んでいない。
今回、Lea-Anne Henryたちの研究グループは、コンピューターアルゴリズムを用いて、保護対象種である深海サンゴLophelia pertusa(イシサンゴ目)について、幼生を北海の洋上施設(原油掘削施設、ガス掘削施設など)の付近に放流した時の分散過程をモデル化した。その結果、幼生は、個々の構造物に定着したサンゴ集団の間を移動し、遠く離れた海域で生息する自然集団に到達することさえあると予測された。これらの幼生は、移動先において、既存のサンゴ集団を補充したり、損傷したサンゴ礁に定着したりする可能性がある。
この研究知見は、北海に存在する人工構造物が、密に連結したサンゴ生態系のクラスターのネットワークを形成していて、そのネットワークは国境をまたいで数百キロメートルに及ぶことを示唆している。これらの人工構造物は飛び石として機能し、サンゴのネットワークの一体性を保持し、海洋循環が弱まった時期にサンゴの回復力を高める可能性がある。今後数十年間は気候変動のために海流が弱まることが予想されるだけに、この知見は重要性を増していくだろう。
doi:10.1038/s41598-018-29575-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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