【医学研究】細胞の再プログラム化による創傷の治癒
Nature
2018年9月6日
マウスの創傷と潰瘍を、創傷に内在する細胞を表皮細胞へ再プログラム化することで治癒できることを報告する論文が、今週掲載される。
創傷治癒における重要なステップは、創傷の周囲の組織中の角化細胞(皮膚の一番外側の層に含まれる主要な細胞)が創傷へ移動して、損傷部分をふさぐことだ。しかし、創傷が大きいと、このプロセスは効率が悪く、加齢とともに効率はより悪くなる。皮膚の治癒能力が低下すると、軽傷だったものが難治性の創傷になって、痛みを伴うようになり、命に関わる潰瘍に進行することもある。高齢化に伴って慢性潰瘍を発症する人が増える傾向にあり、現在利用可能な皮膚移植や高額な医療費がかかる人工器官の移植よりも有効で簡易な創傷治療法が求められている。
今回、Juan Carlos Izpisua Belmonteたちの研究グループは、細胞の再プログラム化技術を用いて、創傷の結合組織に由来する細胞から傷口をふさぐ角化細胞の前駆細胞への転換を実現して、細胞移動を不要にした。Belmonteたちは、細胞を皮膚に再プログラム化するために必要な4種類のタンパク質を同定し、ウイルスを使って、これらのタンパク質をマウスの背中にできた難治性潰瘍に直接送達した。その結果、損傷した皮膚を再プログラム化によって治癒できることが明らかになった。Belmonteたちはこの方法について、さらなる改良と安全性の試験が必要だが、ヒトの皮膚創傷に適用できる可能性があり、損傷した組織や器官への適用可能性もあるという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-018-0477-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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