【環境科学】地すべりが引き起こす津波のリスクが氷河の融解によって高まる恐れ
Scientific Reports
2018年9月7日
高山帯において山岳氷河と永久凍土の融解が長期間継続すると、不安定になった斜面が露出し、津波を引き起こす地すべりの発生危険性が高まることを報告する論文が、今週掲載される。
氷河が、気候温暖化によって融解し後退すると、岩盤斜面を支えられなくなり、落石や雪崩を引き起こすことがある。また、氷河の後退は、新たな水域の形成、あるいは既存の水域の拡大をもたらし、例えば、アラスカ、パタゴニア、ノルウェー、グリーンランドの海岸線沿いで津波が起こりやすくなる。
今回、Bretwood Higmanたちの研究グループは、2015年10月17日に米国アラスカ州のティンドル氷河の末端で地すべりが発生し、1億8000万トンの岩石がターン・フィヨルドに流れ込み、津波を引き起こした際の野外観測結果を報告している。この地すべり自体は約2平方キロメートルの陸地に影響を及ぼし、津波の影響は20平方キロメートル以上にも及んだ。この時の波の遡上高は、地すべりがあった場所からターン・フィヨルドを挟んで向かいの陸地(海岸または静水面より高い構造物)まで、193メートルに達した。Higmanたちは、この津波によって残された独特な堆積記録は、木の破片や土壌、岩石を含む最大数メートルの厚さの堆積層で、テクトニクスによる津波の典型的な堆積層(砂質堆積物からなる薄い堆積層)とは大きく異なっていることを明らかにした。これらの堆積層は、類似の津波事象(古津波を含む)の同定と解釈に役立ち、その発生頻度と規模の理解を深めることができると考えられる。
従って、今回の研究で報告された観測結果は、地すべりと津波の危険をモデル化するための基準となるもので、氷河の作用でできた山岳地帯付近での自然災害の発生頻度と規模を高めると考えられる気候変動の間接的影響への注意を喚起している。
doi:10.1038/s41598-018-30475-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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