【微生物学】新規クラスの抗生物質の同定
Nature
2018年9月13日
アリロマイシンクラスの天然物の化学構造を最適化して、多剤耐性グラム陰性菌[例えば、大腸菌(Escherichia coli)]感染症に対して強力な広域スペクトル活性を有する化合物を作製したことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、細胞での実験とマウスの体内での実験によって得られたもので、これらの化合物をもとに、世界の人々の健康への深刻なリスクと戦う必須医薬品を開発する道が開けるかもしれない。
多剤耐性細菌の感染が拡大しており、ESKAPE病原体は、治療不能な多剤耐性感染症のリスクが最も深刻だ。そのうちのグラム陰性菌[大腸菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター属菌のAcinetobacter baumannii]は、細胞壁の外側にもう1つの幕構造である外膜を持ち、、多くの抗生物質を標的に近づけないようにしているため、著しい脅威となっている。広範な研究が行われているにもかかわらず、ここ50年以上の間、グラム陰性菌に対する活性を示す新規クラスの抗生物質は承認されていない。
アリロマイシン類は大環状リポペプチドの一群で、細菌のI型シグナルペプチダーゼ(タンパク質とペプチドを分解する必須の膜結合性酵素)を阻害する。グラム陰性菌の場合、I型シグナルペプチダーゼの活性部位は、細胞質膜と外膜の間に位置している。これまでアリロマイシンは外膜を透過できないと考えられており、この活性部位に到達できないと考えられていた。
今回、Christopher Heiseたちの研究グループは、高い標的親和性を有し、外膜透過能が向上したアリロマイシン誘導体の同定を目指した。この研究で、Heiseたちは、実験室環境でESKAPE病原体に対して強力な抗菌活性を示す合成アリロマイシン誘導体G0775を発見した。また、G0775は非定型的な機構によって外膜を透過することも明らかになった。さらに、現在利用可能な抗生物質療法のほぼ全てに耐性を有する強力な多剤耐性病原体ですらG0775に対して感受性があり、耐性が生じる頻度が低いことも明らかになった。グラム陰性病原体に対するG0775の有効性は、複数の感染症のマウスモデルで確認された。
doi:10.1038/s41586-018-0483-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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