【人類学】病人の介護がヒトの進化に寄与した可能性
Scientific Reports
2018年9月28日
先史時代のヒトが病人を介護していたために、社会的ネットワークが複雑化し、社会で伝播する疾患の脅威が増大した時に疾患の伝播を防止できた可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。
今回、Sharon Kesslerたちの研究グループは、コンピューターによるモデル化を用いて、4種類の社会システムにおける介護の進化のシミュレーションを行った。それぞれの社会システムは、50~200人規模で、初期ヒト属、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥス、ハイデルベルク人、ネアンデルタール人、ホモ・サピエンスのコミュニティーが再現された。その結果、ヒト系統において有効な介護法が確立されるまでの間、介護の進化を促進してきたのは、両親、きょうだい、いとことその他の親族が介護にあたるという血縁に基づいたシステムであった可能性が非常に高いことが明らかになった。Kesslerたちは、その理由として、このシステムにおいて、家族の構成員一人一人が介護とそれに伴う病気への曝露のコストを分担することで、個人として病気に感染するリスクを低く抑えたと考えられることを挙げている。それと同時に、病気にかかるリスクは、家族内に限定され、外の社会へ広がることを防止できた。そして、有効な介護法が確立されると、介護のネットワークが柔軟性を持つようになり、ヒトの社会システムの複雑性と多様性に寄与するようになった。
Kesslerたちは、ヒト族の進化に伴って、介護によって選択圧が働くようにもなり、特定の典型的なヒトの形質が進化した可能性があるという考えを示している。そのような形質として、(1)疾患の認識と協調的な介護を支える心理的、社会的、および認知的属性、(2)症状を発見しやすくする身体的特徴、(3)介護を行う宿主の間で蔓延する病原体に適応した免疫系、を挙げている。
従って、介護は、ヒト系統の繁栄と関連する心理的・行動的形質の重要な要素であり、疾患の蔓延を抑制できたことが、ヒト社会の複雑性の進化の基盤となった可能性がある、とKesslerたちは結論付けている。
doi:10.1038/s41598-018-31568-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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