【植物科学】タンポポの種子の飛行を支える物理的機構
Nature
2018年10月18日
タンポポの種子の飛行に関する新たな知見を示した論文が、今週掲載される。論文の著者は、タンポポの種子の飛行を支える物理的機構を調べて、流体が浸漬した物体を取り巻く新たな種類の流体の振る舞いを発見したことを報告している。
タンポポは、固い繊維の束(冠毛)を使って種子を浮遊させ、散布させる。冠毛は種子の落下を遅らせるので、種子が水平方向の風によってより遠くに運ばれ、落下する種子を定位させるのにも役立っている。しかし、タンポポのような綿毛状の種子はなぜ、カエデなどの他種の種子のように揚力を増強することが知られた翼状の膜(翼果)ではなく、硬い冠毛がついているのかは明確になっていない。
今回、中山尚美、Ignazio Maria Violaたちの研究グループは、垂直風洞を構築し、タンポポの種子を自由に飛行させた場合と固定した場合の種子の周囲の空気の流れを可視化した。長時間露光での写真撮影と高速撮像を行ったところ、安定した気泡(渦輪)が種子本体から離れた所に生じ、冠毛の下流に一定の距離を保って存続することが判明した。また、著者たちは、タンポポの冠毛の空隙率が渦を安定させるように精密に調整されていると考えられること、そして、タンポポの冠毛によって生じる単位面積当たりの空気抵抗が、平たく丸い固体の物体の場合の4倍以上になっていることを発見した。このことから著者たちは、軽量の種子を散布させる上で、綿毛状の種子は、翼果よりもはるかに効率が良いと主張している。
doi:10.1038/s41586-018-0604-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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