【微生物学】ショウジョウバエの移動運動は腸内細菌によって調節されている
Nature
2018年10月25日
腸内細菌が雌のショウジョウバエの移動運動を調節しているという研究結果を報告する論文が、今週掲載される。腸内マイクロバイオームを持たないショウジョウバエは、腸内に微生物群集を持つショウジョウバエと比べて歩行速度が速く、1回の歩行運動の所要時間が長かった。また、このような移動運動に対する細菌の効果には、キシロースイソメラーゼという酵素が重要であることが明らかになった。
最近の研究で、動物モデルの神経系の発生学的特徴と機能的特徴が腸内マイクロバイオームによって調節されていることが示唆された。しかし、移動運動に関係する神経調節物質と神経回路に対する腸内細菌の影響については、ほとんど分かっていない。
今回、Catherine Schretterたちの研究グループは、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて、移動運動行動に寄与する宿主-マイクロバイオーム間の相互作用を調べた。腸内細菌(飼育または抗生物質処理によって作製した)を持つ個体と持たない個体の両方において、移動運動が調べられた。その結果、腸内に微生物相を持たない雌のショウジョウバエは、通常の方法で飼育されたショウジョウバエと比べて平均歩行速度が速く、1回の歩行運動の平均所要時間が長く、1回の歩行運動から次の歩行運動までの間隔の平均時間が短いことが分かった。
また、Schretterたちは、個体の移動運動能が、腸内に存在する細菌種の違いによって異なる影響を受けるかを調べた。その結果、歩行速度が遅かったりと1日の活動量が不足したりしている場合には、ラクトバチルス属細菌(Lactobacillus brevis:ショウジョウバエのマイクロバイオームに通常含まれる)などの特定の細菌を定着させれば十分に修正できることが判明した。Schretterたちは、L. brevisが保有するキシロースイソメラーゼという酵素が運動行動の制御に重要であることを特定し、この酵素による制御が、トレハロースなどの重要な炭水化物の調節を介して行われる可能性があると示唆している。
Schretterたちは、このような作用に関係するニューロンと神経機構を正確に特定するためにはさらなる研究が必要なことを指摘し、また、こうした移動運動に対する微生物の影響の性別特異的な側面を明確にすることが重要だと主張している。
doi:10.1038/s41586-018-0634-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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