【神経科学】脊髄刺激によるヒトの歩行機能回復
Nature
2018年11月1日
3人の脊髄損傷患者が、標的化ニューロテクノロジーによる電気的脊髄刺激療法で再び歩けるようになったことを報告する論文が、今週掲載される。この研究結果により、脊髄損傷後の神経学的回復を改善するための技術的枠組みが構築された。
脊髄を損傷すると、神経系内での情報伝達が遮断され、必須の神経学的機能の喪失と麻痺が起こる。脊髄に刺激を与える硬膜外電気刺激(EES)によって、脊髄損傷の動物モデルの歩行運動が回復したが、この手法はヒトでは効果が低く、その理由はこれまで解明されていなかった。
今回、Gregoire Courtineたちの研究グループは、慢性脊髄損傷(4年以上)で、下肢の部分麻痺または完全麻痺を呈している3人の男性患者に、標的化EESを実施した。この実験では、運動ニューロンの活動マップとシミュレーションモデルを使って、それぞれの筋肉群に最適な刺激パターンが突き止められた。EESは無線通信を介してリアルタイムで制御されたパルス発生器を用いて生成され、刺激を加えるタイミングは患者が意図した運動内容と連動させた。この療法の開始から数日後には、患者の歩行機能は、EESを受けながら、トレッドミル上での歩行から補助用具を使った地面歩行まで改善し、足上げの高さと歩幅を調節できるようになった。さらに、患者は、EESを受けながらトレッドミル上で最長1時間の歩行運動ができるようになった。リハビリテーションの後、これら3人の患者は、EESを受けながら自力歩行(補助用具の部分的利用または歩行器の利用による歩行)ができるようになり、EESを受けなくても脚の随意運動が回復した。
Courtineたちはまた、Nature Neuroscienceに掲載される関連論文で、これまでの刺激療法のプロトコルは患者の肢の位置の知覚を妨げていたために、歩行機能の回復効果がそれほど顕著ではなかった可能性があることを実証している。バースト状の刺激であれば、脚から入力される感覚シグナルを保持しつつ、歩行運動が促進される。
また、Nature Neuroscienceに同時掲載されるNews & Viewsでは、Chet Mortizが「Courtineの研究グループによる2編の最新論文は、脊髄損傷の治療法の輝かしい未来を明確に示している」と述べている。
doi:10.1038/s41593-018-0262-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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