【植物科学】種子による無性生殖で繁殖するイネ
Nature
2018年12月13日
イネは、通常は有性生殖で繁殖するが、このほど、種子による無性生殖で繁殖するイネが遺伝子工学によって作製されたことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、作物の無性生殖が実現可能なことを実証し、農作物の育種における重大な展開となる可能性がある。
種子による無性生殖は、多くの植物種で自然に生じているが、重要な作物種では生じない。作物種の無性生殖を誘導できれば、育種プログラムで必要な遺伝的形質を促進するために役立つ可能性があり、いわゆる「雑種強勢」(雑種第1代は両親の系統よりも生命力が強いこと)を増進させることもできる。雑種は、遺伝的多様性ゆえに作物収量が増える場合があるのだ。ただし、植物において受精後に胚形成を引き起こす過程は十分に解明されていない。
今回、Venkatesan Sundaresanたちの研究グループは、種子から無性生殖でイネ(Oryza sativa)を育種する方法の実現可能性を調べた。まず、精細胞に含まれるBABY BOOM1(BBM1)遺伝子は、受精が起こらない場合でも胚形成に重要な役割を担っていることが明らかになった。次にCRISPR/Cas-9によるゲノム編集が行われ、卵細胞でBBM1遺伝子を発現するイネ株の減数分裂(生殖細胞が形成される細胞分裂)が除去された。その結果得られたイネ株は無性生殖で繁殖し、いわゆるSynthetic-Apomictic(S-Apo)株からは、必要とされる遺伝的多様性を備えたクローンの雑種子孫が得られた。この無性生殖の形質は、S-Apoイネの2世代後まで存続した。
doi:10.1038/s41586-018-0785-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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