【幹細胞】ラットの体内でマウスの腎臓を作製する
Nature Communications
2019年2月6日
遺伝子組換えによって腎臓を欠損させたラットの体内で、マウスの多能性幹細胞(PSC)に由来する十分に発達した腎臓が形成されたことを報告する論文が、今週掲載される。今回の研究では、マウスPSCをラット胚に注入し、その胚を仮親ラットに移植して、発生を継続させた。
ヒトの腎臓を動物の体内で作製することは、将来的に、臓器移植に利用可能なドナー臓器の不足を緩和する可能性を秘めている。しかし現在のところ、種間障壁をいかにして乗り越えるかという課題が解決していない。
今回、生理学研究所の平林真澄(ひらばやし・ますみ)たちの研究グループは、ラットの体内でマウス由来の膵臓を作製した先行研究と同じ方法を用いて、マウスPSCを初期胚構造(胚盤胞)に注入した。この胚盤胞は、遺伝子組換えによって腎臓を欠損させたラットから採取されたもので、多能性幹細胞が注入された胚盤胞は、仮親ラットの子宮内に移植され、発生を続けた。生まれたラットは、遺伝的変異のため出生後間もなく死んだため、実施可能な機能解析が制限されたが、それでも平林たちは、作製されたマウス由来の腎臓に、正常なマウスの腎臓と同じ数の糸球体があり、十分に形成された尿管・膀胱接合部もあったことを明らかにした。
この方法がヒトPSCに応用可能かを検討できるようになるまでには、こうして作られた腎臓の機能と構造の特徴を十分に明らかにする必要がある。その一方で、より大きな種間障壁を乗り越えることに関する問題、作製された臓器のキメラ性の問題、臓器の作製に関連した倫理的問題にも取り組む必要がある。
doi:10.1038/s41467-019-08394-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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