【神経科学】反復性頭部外傷の決定的な特徴
Nature
2019年3月21日
反復的な頭部への衝撃(スポーツ外傷など)を原因とする神経変性疾患において出現するタンパク質凝集体について説明する論文が、今週掲載される。慢性外傷性脳症(CTE)は、タウというタンパク質の蓄積と凝集が特徴で、アルツハイマー病にもこれに似た特徴がある。今回の研究では、両疾患に影響するタウタンパク質自体は同じものだが、CTEにおけるタウ凝集体の構造は、アルツハイマー病のタウ凝集体の構造とやや異なっていることが明らかになった。この知見から、タウ凝集体の構造のわずかな違いによって個々の神経変性疾患を定義できることが実証された。
CTEの患者には、ボクシング、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツ(相手選手との身体接触を伴うスポーツ)の選手、退役軍人、身体的虐待の被害者がいる。行動障害、気分障害、思考障害といったCTEの症状が現れるのは、通常、負傷してかなり時間が経ってからのことで、症状は徐々に悪化し、認知症を発症する恐れもある。タウ凝集体がCTEの進行に関わっていることは先行研究によって明らかになっているが、タウ凝集体の構造は詳しく解明されていなかった。
今回、Sjors Scheres、Michel Goedertたちの研究グループは、3人のCTE患者(元アメリカンフットボール選手1人と元ボクシング選手2人)の死後に脳から採取したタウの構造を決定した。その結果、タウ凝集体の構造は3人とも同じだが、タウ凝集体が関係するアルツハイマー病などの他の神経変性疾患に見られるタウ凝集体の構造とは異なっていることが分かった。著者たちは、今回明らかになった構造が、CTEの診断検査法の設計に役立つ可能性があるという考えを示している。こうした知見は、脳の外傷がタウ凝集体の形成につながる仕組みへの我々の理解を深め、CTEにおけるタウの蓄積を防ぐ治療法の開発に役立つ情報をもたらしてくれる可能性がある。
doi:10.1038/s41586-019-1026-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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