【創薬】オーストラリアウンバチクラゲの毒液を詳しく調べて見つかった解毒剤候補
Nature Communications
2019年5月1日
マウスを使った研究で、立方クラゲ類のオーストラリアウンバチクラゲ(Chironex fleckeri)の毒液による組織壊死と痛みを抑制する解毒剤が見つかったことを報告する論文が、今週掲載される。この研究で用いられた手法が他の動物の毒素にも適用できる可能性が示唆されている。
オーストラリアウンバチクラゲは、地球上で最も強い毒性を持つ動物に分類され、その毒液に触れると激しい痛みを生じ、大量曝露があると数分以内に死ぬこともあるが、この即効作用をもたらす機構は分かっていない。現在の治療法の有効性は限定的で、痛みや局所的組織壊死(毒液への曝露の最も一般的な臨床転帰)を直接標的とする治療法は存在しない。新規治療法の開発に対する大きな障害の1つは、毒液の作用に関する分子レベルでの解明があまり進んでいないことだ。
今回、Greg Neelyたちの研究グループは、オーストラリアウンバチクラゲの毒液に曝露された宿主細胞の死滅に必要な遺伝子を特定するため、ゲノム規模のCRISPRスクリーニングを行った。その結果、毒液の細胞毒性に必須の遺伝子がいくつか見つかり、その中にはコレステロール生合成に関係する遺伝子も含まれていた。そして、これらの遺伝子を阻害すると、オーストラリアウンバチクラゲの毒素に対する抵抗性が高まることが明らかになった。また、コレステロールを調節し、ヒトのニーマン・ピック病の治療に用いられてきた2-ヒドロシプロピル-β-シクロデキストリンを、毒素への曝露から15分以内にマウスに投与した場合に、痛みが和らぎ、組織壊死が阻止された。
Neelyたちは、毒素への曝露後に関係する細胞経路を解明することで得られた新知見が、クラゲの毒液に対する新たな解毒剤の設計に使うことのできる情報になると結論付けている。
doi:10.1038/s41467-019-09681-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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