【考古学】高地のチベット高原でも生活していたデニソワ人
Nature
2019年5月2日
デニソワ人の下顎骨の化石がチベット高原の洞窟で発見され、16万年前のものと年代測定された。これが、シベリアのデニソワ洞窟以外の場所で生活していた古代ヒト族のデニソワ人の証拠だとする初めての研究報告が、今週掲載される。この下顎骨は、チベット高原で発見された最も古いヒト族の化石とされる。この発見は、デニソワ人が高地の低酸素環境に適応した時期が、現生人類がチベット高原に到達した頃よりかなり前だったことを示している。
デニソワ人は、ネアンデルタール人の姉妹群で、すでに絶滅しており、シベリア南部のデニソワ洞窟で発見された断片化石とアジアにおける現生人類の遺伝情報が一部残っていたことだけが解明の糸口となっている。現在のシェルパ族、チベット人とその近隣に住む民族は、高地での生存に役立つデニソワ人由来の遺伝的バリアントを持っている。しかし、古代ヒト族のデニソワ人の化石証拠は、標高わずか700 mのデニソワ洞窟で発見されたものしかないため、デニソワ人が高地に適応した原因ははっきりしていなかった。
今回のJean-Jacques Hublin、Frido Welker、Dongju Zhangたちの研究グループの論文で、チベット高原の白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave;標高3280 m)で発見されたヒト族の下顎骨について説明されている。この下顎骨から見つかったタンパク質の解析で、デニソワ人の骨と同定され、放射性同位体年代測定によって16万年以上前のものであることが判明した。この測定年代は、これほどの標高のチベット高原にヒト族が生活していたことを示す最古の証拠(約3~4万年前と年代測定された)よりも前だった。この骨化石が高地で見つかったことは、デニソワ人が高地の低酸素環境への適応をもたらす遺伝的バリアントを有していた理由となる可能性がある。また、この下顎骨の年代は、デニソワ洞窟で発見された最古のデニソワ人の化石の測定年代とも矛盾しておらず、この下顎骨の特徴の一部(歯列など)は、先行研究で明らかになったデニソワ人の化石の特徴と類似している。
以上をまとめると、今回の研究で得られた新知見は、東アジアでのヒト族の進化史の解明を進める上で役立つものと考えられる。
doi:10.1038/s41586-019-1139-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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