【健康科学】統合ヒトマイクロバイオームプロジェクトの成果
Nature
2019年5月30日
統合ヒトマイクロバイオームプロジェクト(iHMP)による3編の論文が、今週のNatureおよびNature Medicineに掲載される。これらの論文は、ヒトの健康が宿主とマイクロバイオームの活動によってどのように影響されるかの概要を示している。iHMPは、炎症性腸疾患(IBD)と前糖尿病、妊娠、早産におけるマイクロバイオームと宿主の変化を調べるプロジェクトである。得られた知見は、これらの状態の特徴を明らかにし、患者の転帰を予測する取り組みに役立てられ、将来的には治療に寄与する可能性がある。
ヒトのマイクロバイオーム(ヒトの体内に存在する微生物のゲノム)には、個人差があり、集団と環境によっても異なり、ヒトの健康と疾患に影響することが知られている。iHMPは、マイクロバイオームと宿主の時間的動態(免疫応答や代謝など)をマルチオミクス法を用いて探索し、これらの状態における微生物と宿主の相互作用を解明することを目指している。
Curtis HuttenhowerたちはNatureに掲載される論文で、IBD患者と健常対照者(計132人)を調べた研究結果を報告している。Huttenhowerたちは、マイクロバイオームの構成の変化、腸内の宿主由来分子とマイクロバイオーム由来分子の変化、および遺伝子発現の変化を明らかにした上で、この研究は、IBDにおける宿主と微生物の活動に関するこれまでで最も包括的な記述をもたらし、疾患の発生と進行に関する手掛かりとなる可能性があると結論付けている。
Michael SnyderたちはNatureに掲載される別の論文で、前糖尿病における宿主とマイクロバイオームの活動の相互作用について報告している。前糖尿病は、2型糖尿病に進行する可能性のある状態だが、未診断であることが多い。Snyderたちは、前糖尿病患者と健常者(計106人)を対象とした研究を4年間行い、分子的変化と遺伝的変化、微生物の変化を分析した。その結果、疾患発生の初期段階を示すパターンが明らかになり、これによって一部の症例で2型糖尿病の早期発見が可能になるかもしれない。
Gregory BuckたちはNature Medicineに掲載される論文で、世界的な発生率が10%を超える早産のリスクに対する膣内マイクロバイオームの寄与について報告している。Buckたちは、妊娠中の女性(計1527人)を調べて、特にアフリカ系女性における早産(妊娠37週未満の出産)のリスクと関連する膣内マイクロバイオームの変化を明らかにした。例えば、早産した女性では、満期出産した女性よりもLactobacillus crispatusが少なかった。この細菌は以前に、女性の健康と関連があることが報告されている。Buckたちは、この他にも早産した女性に多く見られる数種類の細菌を特定している。この研究は、将来的に妊娠初期の早産を予測する取り組みに役立つ可能性がある。
今週のNatureには、iHMPについて論じたPerspectiveとCommentも掲載される。
doi:10.1038/s41586-019-1238-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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