【遺伝学】筋ジストロフィーのマウスモデルをCRISPRを用いて治療する
Nature
2019年7月25日
CRISPRによる遺伝子活性化法によって、筋ジストロフィーのマウスモデルにおける疾患症状の予防と回復が実現したことを報告する論文が、今週掲載される。
筋ジストロフィーは、遺伝性の筋萎縮性疾患の一群で、そのサブタイプの1つである先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)は、ラミニンα2をコードする遺伝子Lama2の変異によって引き起こされる。この変異があると、一部の末梢神経を保護するミエリン被覆が失われ、筋繊維の安定性が破壊される。齧歯類を用いた研究では、関連遺伝子であるLama1(ラミニンα1をコードする)の発現を上昇させることにより、MDC1Aのマウスモデルの症状を緩和できることが示されたが、その遺伝子のサイズが大きいことから、標準的な遺伝子治療法で同じ効果を得るのは難しい。
今回Ronald Cohnたちの研究グループはこの問題に取り組むため、MDC1Aのマウスモデルにおいて、CRISPRを介した遺伝子活性化系を用いることでラミニンα1の発現を上昇させた。MDC1Aの症状が生じる前のマウスにこの処置を適用すると、筋萎縮と筋麻痺の症状を予防する効果が認められ、さらに重要なことに、MDC1Aの症状を示すマウスにおいても効果が認められた。
CRISPRは、カギとなる遺伝子の発現を上昇・減少させるのに用いることができるため、汎用的なツールの1つとなっている。Cohnたちは、将来的には、この方法を組み込んだ併用療法が、保護作用のある遺伝子を「活性化」して、有害な遺伝子を「抑制」することによって、筋ジストロフィーなどの遺伝性疾患の治療に役立つかもしれないという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-019-1430-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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