【神経科学】脳から脳脊髄液が排出される経路
Nature
2019年7月25日
脳脊髄液が脳から排出される際の経路が正確に特定されたことを報告する論文が、今週掲載される。この研究知見は、脳の老廃物が除去される仕組みを解明する上で役立ち、この排出過程が加齢に伴って変化すると、神経変性疾患の発症にどのような影響が及ぶのかを解明する上での手掛かりにもなる。
体内組織の過剰な体液や巨大分子(タンパク質など)は、リンパ管を通って除去されるが、脳には古典的なリンパ管排出系がないと最近まで考えられていた。ところが約4年前に、髄膜(脳を包む膜)にリンパ管のネットワーク(髄膜リンパ管)が再発見され、巨大分子を排出することで、体液バランスを調節していることが分かった。しかし、脳脊髄液(CSF)の正確な排出経路は、解明が進んでいない。その一因は、頭蓋底の複雑な構造の中に閉じ込められた髄膜リンパ管の探索が難しいことにある。
今回、Gou Young Kohたちの研究グループは、マウスの頭蓋底を注意深く調べることで、髄膜リンパ管の正確な位置を可視化し、CSFの取り込みと排出を容易にする特殊な特徴を突き止めた。Kohたちは、若齢マウス(3か月齢)と高齢マウス(24~27か月齢)の髄膜リンパ管の構造と機能を比較することで、リンパ管の完全性とCSFクリアランスが加齢によって低下することを明らかにしている。脳内にタンパク質が蓄積することは、アルツハイマー病などの加齢性神経変性疾患の一因と考えられている。今回の研究によって得られた知見は、神経変性疾患の発症におけるCSFのクリアランス不全の役割に関してさらなる手掛かりをもたらす。
doi:10.1038/s41586-019-1419-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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