【生態学】タマリンが熱帯林の再生に役立っているかもしれない
Scientific Reports
2019年7月26日
人間による生息地の撹乱に強い耐性を示すタマリン(小型のサルの一種)が、伐採された熱帯林の再生に役立つと考えられるとする研究報告が、今週、Scientific Reportsに掲載される。タマリンは、果実を餌とし、隣接する森林に由来する種子を森林伐採のあった地域に持ち込んで地面に落とすことで、新しい植物や樹木が成長するようになるという。
今回、Eckhard Heymannたちの研究グループは、1990年に森林伐採があり、2000年までバッファローの牧草地として使用されていた、ペルーのアマゾン川流域で観察したクチヒゲタマリン(Saguinus mystax)とLeontocebus nigrifronsというタマリン類の2種の個体群の長期分布データと採餌データを用いた。Heymannたちは、人間がこの地域を放棄した後、近くの森林に生息していたタマリンによるこの地域の利用が徐々に増加したことを明らかにした。タマリンは、合計31種の植物から得た果実を餌としており、2000年に餌とした果実種が1種、2005年が6種、2006年が12種、2007年が16種、2008年が19種だった。
また、Heymannたちは、487個の植物種子の成長を1年間追跡調査した。そのうちの47個(9.6%)の種子はタマリンが森林から放棄された牧草地に散布したもので、15個(31.9%)が1年以上生存し、発芽していた。残りの440個は森林に散布された種子で、そのうち82個(18.6%)が1年以上生存した。こうした違いが生じた原因としては、牧草地の方が利用できる光の量が多いこと、競争が激しくないこと、捕食圧が低いことのうちのいずれか1つあるいは2つ以上の組み合わせだと考えられている。また、調査対象地域では、タマリンが霊長類の主要な食物資源である植物Parkia panurensisの唯一の種子散布者であったため、HeymannたちはP. panurensisの実生(37点)の遺伝子解析も行った。これらの実生の半分以上(19点)が、隣接する森林の親木(11本)に対応することが判明し、タマリンによる種子散布の有効性が確認された。
森林の再生によってタマリンの生態学的ニーズが全部満たされたわけではなく、調査期間中のタマリンは、隣接する森林への依存を続けたが、人間の活動によって撹乱された森林の自然再生にタマリンが寄与できることが、今回の研究結果から示唆されている。
doi:10.1038/s41598-019-46683-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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