【生態学】魚類における毒素蓄積に対する気候変動と乱獲の影響
Nature
2019年8月8日
海水中の有毒なメチル水銀(MeHg)の濃度は1990年後半以降低下したにもかかわらず、海洋温暖化と乱獲による魚類の食餌内容の変化によって、人間が食べている魚類の一部でメチル水銀濃度が上昇している可能性のあることが明らかになった。この研究知見を報告する論文が、今週掲載される。
海産物は多くの人々の栄養源となっているが、魚類は神経毒であるメチル水銀の曝露源ともなっている。メチル水銀曝露のリスクを軽減するため、人為起源の水銀排出量を削減するための国際条約(水銀に関する水俣条約)が2017年に発効した。しかし、この条約において国際目標が設定された時には、現在起こっている海洋生態系の変化が、人間が多く食べている魚類(タラやマグロなど)におけるメチル水銀の蓄積にどのように影響するかは考慮されていなかった。
今回、Amina Schartup、Elsie Sunderlandたちの研究グループは、海水温の上昇と乱獲が魚類のメチル水銀濃度に及ぼす影響を解明するための研究を行った。この研究では、大西洋北西部のメイン湾の生態系と海底堆積物、海水中のメチル水銀濃度に関する30年以上にわたるデータが用いられた。その結果、タイセイヨウマダラの組織中のメチル水銀濃度は、1970年代から2000年代までの間に最大23%上昇したことが分かった。こうした変化の原因として、研究グループは、乱獲のために魚類の食餌内容が変化したことを挙げている。タラは、これまでより大型の被食魚(ニシン、ロブスターなど)への依存度を高めており、これらの魚介類のメチル水銀濃度は、1970年代に餌としていた他の被食魚よりも高い。
今回の研究では、タイセイヨウクロマグロのメチル水銀蓄積量に対する近年の海水温変化の影響についても分析が行われた。その結果、海水温の低かった1969年以降の海水温上昇が、タイセイヨウクロマグロのメチル水銀濃度の(推定)56%上昇の一因となった可能性が明らかになった。以前の研究で、海水温の上昇が、一部の魚類におけるメチル水銀濃度の上昇と関連付けられていたが、野生種にどの程度の変化が生じているのかについてはほとんど解明されていなかった。
世界の水銀排出量は横ばい状態であることが報告されているが、今回の研究は、海洋温暖化と漁業が魚類の水銀濃度を調節する役割を果たしていることを示している。
doi:10.1038/s41586-019-1468-9
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