神経科学:ヒトとマウスの脳領域の細胞種を比較する
Nature
2019年8月22日
ヒト大脳皮質の1つの領域に存在する75種類の異なる細胞タイプを特定した解析についての論文が、今週掲載される。今回の解析研究では、このデータをマウス脳の類似した領域のデータと比較することを通じて、この大脳皮質領域の構造と細胞タイプに類似点がある一方で、広範な相違点のあることも明らかになった。この研究知見は、モデル生物の使用に加えて、ヒトの脳を直接研究することの重要性を強調している。
ヒトの大脳皮質は、マウスの大脳皮質と比べて、面積とニューロン数が1000倍以上である。大脳皮質の基本的な構造は哺乳類種において保存されているように思われるが、以前の研究では、ヒト大脳皮質の細胞構成が複数の点で異なっていることが指摘されていた。
今回、Ed Leinたちの研究グループは、単一核RNA配列解読法を用いて、ヒト大脳皮質の1つの領域である中側頭回の細胞タイプを分類した。今回の解析研究では、ニューロン以外の細胞(6種類)、興奮性細胞(24種類)、抑制性細胞(45種類)の合計75種類の細胞タイプが特定された。次に、Leinたちは、マウスの単一細胞RNA塩基配列データセットを用いて、ヒトとマウスの大脳皮質を比較し、ヒトについて特定された細胞タイプの大部分は、マウスにも対応する細胞タイプが存在することを明らかにした。
一方、Leinたちは、対応関係にあるヒトとマウスの細胞タイプ間に遺伝子発現レベルの差異があることも見いだした。例えば、セロトニン受容体は、ヒトとマウスの間で2番目に大きく異なる遺伝子ファミリーであった。この結果は、セロトニンのシグナル伝達が関係する神経精神疾患のマウスモデルの使用に疑問を投げ掛けるものになったとLeinたちは考えている。
doi:10.1038/s41586-019-1506-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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