【進化学】酵母がビールをつくる
Nature Ecology & Evolution
2019年10月22日
違う種類の酵母の交雑によって、醸造環境への適応と異なるビールスタイルの出現が促進されたと報告する2編の論文が掲載される。
人類は、数千年前からサッカロミケス(Saccharomyces)属の酵母を使って、ビールやワインなどさまざまな発酵製品を製造してきており、培養化の過程でそれぞれの製造環境に適応した酵母種を多数作り出してきた。こうした酵母は、異なる種の親から固有の特性を組み合わせてできた雑種である。
今回、Kevin Verstrepenたちは、醸造などの産業活動に用いられている酵母200種類のゲノム塩基配列を解読した。その結果、解析した酵母の4分の1は4種の親の雑種であることが明らかになり、交雑は、醸造工程を改善する形質(低温への耐性や糖の発酵など)を組み合わせるのに役立っていると示唆された。また、現代のラガー酵母は遺伝的多様性が低いことが明らかになり、これは19世紀後半に培養、低温貯蔵され、広まった酵母株がわずかであったことで説明される。しかし、ベルギーの醸造所は、伝統的な醸造法を守り続け、今日に至るまで多種多様な酵母株を用いてビール醸造を行っている。
別の論文では、Chris Hittingerたちが、サッカロミケス属の雑種122種類のゲノムを解析している。そのゲノムから、野生株と産業株が関わる複雑な交雑の歴史が明らかになった。Saccharomyces cerevisiaeが寄与した雑種は、培養化された3つの親系統のS. cerevisiaeから生じたことが分かった。対照的に、それ以外の3つの親系統は、全て野生の系統であった。スタウトビールとヴァイツェンビールの酵母には、起源の多くをラガー酵母と共有するものが複数あることが明らかになった。Verstrepenたちと同様に、Hittingerたちも低温耐性形質の遺伝ルートを明らかにしている。
総合すると、今回の2編の論文は、雑種形成が醸造環境での酵母の適応と多様化をどのように促進したのかを示すとともに、産業に関連する他の雑種酵母を開発する上で有益となる情報をもたらしている。
doi:10.1038/s41559-019-0997-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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