【遺伝学】英国における社会経済的要因による移住は遺伝子の差と関連する
Nature Human Behaviour
2019年10月22日
英国では、メンタルヘルス、個性、学業達成度などのさまざまな形質と関連する遺伝的変異が地域によって偏っていることを報告する論文が掲載される。この研究で、この傾向はおそらく祖先の違いによるものではなく、社会経済的に駆動された近年の移動によるものであると考えられることが示唆されている。
英国では、ヒトのDNAは、先祖の違いを反映することが知られており、また人々が伝統的に生まれた土地に留まってあまり移動しないため、数世紀にわたって維持されてきた。しかし、DNAの構成が、産業革命や後の移住などの国内移動によってどのように影響を受けているかについてはよくわ分かっていなかった。
今回、Abdel Abdellaouiの研究チームは、英国バイオバンクに登録されたヨーロッパ系の45万人以上を対象に、約120万の遺伝的変異を使って、多遺伝子スコア(特定の形質に関する人の遺伝的素因の推定値)を計算した。すると、解析した33の遺伝形質のうち、21の形質に明瞭な地域的な偏りが認められた。また、参加者の多遺伝子スコアは、(年長の遺伝的祖先の影響を取り除くと)、遠くに住む他の参加者の多遺伝子スコアよりも、近隣に住む人々の多遺伝子スコアに近いことが判明した。このパターンは特に、学業達成度に関するスコアについて強く認められた。低学歴と関連する遺伝的変異は、炭鉱町などの経済的に苦しい地域でより多く認められた。研究チームは、参加者が学業達成度に関して高い遺伝的素因を有している場合、貧しい地域を去っている可能性が高いのではないかと示唆している。
さらに研究チームは、選択的な移動が、遺伝的変異だけでなく、(究極的には投票傾向などの集団的な態度と一致する可能性のある)社会的および経済的な問題の地域への偏りと関連する可能性があることを見いだしている。例えば、選挙結果にみられる地域差は、地域の社会経済的状態、ならびに学業達成度と相関する遺伝的変異の両方と関連している。
社会的成層は、英国における遺伝的変異の地域分布に影響を及ぼしている可能性が高く、健康や不平等に関連する政策、さらには遺伝子と行動変化の関係に関する今後の研究に重要な意味を持つと、研究チームは結論している。
doi:10.1038/s41562-019-0757-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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