【がん】KRAS変異型がんの治療法
Nature
2019年10月31日
このほど行われたマウスとヒトの腫瘍の研究で、高頻度かつ特異的な遺伝的異常を標的とする新しい抗がん剤が有望であることが明らかになった。今週掲載される論文には、KRAS阻害剤治療のヒト臨床試験に関する最初の報告をはじめとする研究成果が示されている。
ヒトのがんの多くは、KRASがん遺伝子の変異によって引き起こされ、肺腺がんの約13%、大腸がんの3%、その他の固形がんの2%でKRAS遺伝子の変異が見つかっている。今回、Jude Canonたちの研究グループは、KRAS遺伝子の活性を阻害することで作用する抗がん剤AMG510の開発について報告している。
今回の研究では、Kras変異型がんのマウスモデルを使った試験が実施され、KRAS阻害剤治療は、増殖中の腫瘍の縮小、場合によっては根絶にも役立った。また、用量漸増試験では、2人のKRAS変異型がん患者が、この治療法に対して望ましい反応を示した。6週間の治療後、1人の患者の腫瘍が34%縮小し、もう1人の患者の腫瘍は67%縮小した。これは、変異型選択的なKRASの直接阻害剤に反応したがん患者の最初の報告となった。
さらに、大腸がんのマウスモデルでは、KRAS阻害剤治療によって腫瘍周囲に炎症誘発性の微小環境が形成された。この作用によって、他の抗がん剤に対する腫瘍の感受性が高まり、適応免疫応答を生じさせ、マウスモデルにとっての持続的な治療法となった。以上をまとめると、今回の研究結果は、KRAS阻害剤が単独で、あるいは他の抗がん戦略との併用によって効果的に作用することを示唆している。
doi:10.1038/s41586-019-1694-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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