【がん】がんゲノムを集中的に調べるプロジェクト
Nature
2020年2月6日
さまざまな種類の腫瘍を対象として、がん検体のゲノム全体(約2700件)の解析と配列決定を行う国際的な取り組みで、がんの遺伝的複雑性に関する手掛かりが得られた。この取り組みに関する22編の論文がNature Researchのジャーナル各誌に掲載されるが、その一環として今回行われた包括的解析を詳細に記述した6編の論文が、今週、Nature に掲載される。この情報資源は、がんの発生を駆動する生物学的変化の解明を進めるものであり、この知識を臨床治療に橋渡しする今後のプロジェクトに利用されることが期待される。
がんのさまざまなサブタイプには、数々の遺伝的異常が寄与している。1回の生検で得られる塩基配列解読データは、その瞬間に特定の部位で生じている遺伝的変化のスナップショットだが、多数のがん検体で全ゲノム塩基配列解読を行えば、がんの発生に寄与する事象をもっと包括的に把握できる可能性がある。
今回、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC;International Cancer Genome Consortium)およびがんゲノムアトラス(TCGA;The Cancer Genome Atlas)のがん種横断的全ゲノム解析(PCAWG;Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes)コンソーシアムが、38種の腫瘍を対象として、がん検体とそれに対応する正常組織のゲノム全体(2658件)を解析した結果を発表した。Peter Campbellたちが解析結果を概説した論文では、重要な新知見の一部を取り上げて、がんゲノムには平均4~5個のドライバー変異が含まれていることが報告されている。また、解析対象のがん検体の91%から1個以上のがんドライバー遺伝子が見つかったが、腫瘍の5%には明らかなドライバーが見つからなかった。この結果は、さらなる研究によって新たなドライバーを突き止める必要があることを示している。
この他にも、遺伝的変異過程の新たな特徴が明らかになり、がんの基盤となる過程を解明する手掛かりとなり得ることを報告する論文も掲載される。さらに、今回の解析は、がんゲノムを特徴付ける変異過程の性質とタイミングを明らかにする上で役立つと考えられ、がんの早期発見の機会になることも明らかになった。収集されたデータは、構造変化と遺伝子調節のデータセットを重ね合わせることにより、別の種類の変化を同定するための情報資源としても利用できる。
また、以上の論文に関連するMarcin CieslikとArul ChinnaiyaninのNews and Viewsでは、患者の転帰と治療に関するPCAWGデータと臨床データを用いて、臨床転帰を予測できる遺伝的変化を特定することが次の段階になると指摘されており、「今回の研究プロジェクトの長期的な影響は、本日発表される新知見にとどまらず、国際的な研究者コンソーシアムのメンバー間で形成された協調関係と知識交換からももたらされるだろう」と結論付けている。
PCAWG関連のコンテンツは、報道解禁後、こちらのリンクからご覧いただけます。
doi:10.1038/s41586-020-1969-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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