【素粒子物理学】巨大な素粒子衝突型加速器のコスト削減
Nature
2020年2月6日
大型ハドロン衝突型加速器のような既存の施設よりはるかに高い衝突エネルギーを達成できる素粒子衝突型加速器の実現に一歩近づいたことを報告する論文が、Nature に掲載される。この論文には、ミューオンビームの輸送に改良が加えられたことが報告されている。ミューオンとは、電子のような基本粒子だが、電子よりも質量が大きい。極めて重要な衝突エネルギーの達成可能値は、質量に比例して増大するため、ミューオン衝突型加速器は、現在の衝突型加速器より小型化でき、従ってコスト削減につながる可能性がある。
基本粒子(電子やミューオンなど)は、下部構造を持たないため素粒子衝突実験においてビームの全エネルギーを持つので、物質の構造を調べるために最も適している。ミューオンの質量は、電子の207倍であり、現在の加速器で達成可能なエネルギーよりも大きなエネルギーで衝突する可能性がある。しかし、このような衝突実験を行うために必要な特性を備えたミューオンビームは生成されていない。
今回、Chris Rogersの研究グループは、ミューオンビームのイオン化冷却に成功することで、高エネルギー衝突実験に必要な高輝度ミューオンビームの生成に伴う課題のいくつかを克服した。この研究成果は、誤った方向への過剰な動きを減らすのに役立ち、既存の衝突型加速器にはできない現象の探索を可能にする十分に高品質のミューオンビームを生成する上で役立つ可能性がある。同時掲載されるRobert Ryne のNews & Viewsでは、今回の研究でミューオン衝突型加速器の開発における画期的な成果が得られたという見解が示された一方で、開発の成功には今後かなりの研究を積み重ねる必要のあることが指摘されている。
doi:10.1038/s41586-020-1958-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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