【気候変動】エアロゾルによる寒冷化で経済格差の拡大が一部相殺される
Nature Climate Change
2020年2月18日
人為起源のエアロゾル排出が世界的な経済格差を部分的に相殺してきた可能性があるという見解を示す論文が、Nature Climate Change に掲載される。エアロゾルは、人間の健康と生態系の健全性に悪影響を及ぼすが、今回の研究で得られた知見は、エアロゾルの排出が経済的生産性にどのような影響を及ぼすのかという点に関する新たな手掛かりになっている。
エアロゾル(主に硫酸塩)は、雲や太陽光と複雑な相互作用を行って、人為起源の温室効果ガスによる余剰熱の約3分の1を相殺している。気候温暖化は、温暖地域の経済に悪影響を及ぼし、寒冷地域に経済的便益をもたらすことが、最近の研究によって明らかになっている。しかし、エアロゾルによる寒冷化の影響が世界各国にどのように及んでいるのかは定量化されていない。
今回、Yixuan Zhengたちの研究チームは、気候モデルを用いて、エアロゾルの濃度が工業化以前のレベルに維持された世界と過去のエアロゾル排出量の増加が反映された世界について、1850~2019年のシミュレーションを行った。この異なった2つの世界は、エアロゾルの全球的寒冷化効果をほぼ反映している。次にZhengたちは、国レベルの気温と国内総生産を関係づける指標を用いて、エアロゾルによる寒冷化の経済的影響を定量化した。その結果、2010年の名目ベースの世界では、エアロゾルによる寒冷化が寒冷地域に経済的被害をもたらし、温暖地域の国々に便益をもたらしたという推定結果になった。そして、全球規模では、これらの国レベルの影響が互いに相殺されることが分かった。
多くの先進国が寒冷地域にあり、開発途上国が温暖地域にあるため、今回の研究結果は、気候温暖化によって引き起こされる経済的不平等が、全球的エアロゾル排出によって部分的に相殺されている可能性があることを示唆している。しかし、Zhengたちは、エアロゾルの健康への悪影響が、こうした経済的利益を上回る可能性が高いという結論を示している。
doi:10.1038/s41558-020-0699-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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