生態学:大規模な生態系の崩壊をモデル化する
Nature Communications
2020年3月11日
脆弱な大規模生態系(例えば、アマゾン川流域の熱帯雨林やカリブ海のサンゴ礁)で崩壊が起こり始めると、わずか数十年で崩壊が完結する可能性のあることを示唆するモデル研究について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。
生態学上のレジームシフトは、安定した生態系が持続的に大きく変化することであり、突然起こることが多く、「転換点」に達するとフィードバックループによって駆動される可能性がある。レジームシフトの発生頻度は、気候変動と環境悪化によって上昇すると予想されるが、生態系の大きさと崩壊速度の関係は明確に解明されていない。このことが明らかになれば、環境破壊を低減するための適応管理戦略を実施する場面を特定する上で役立つ可能性がある。
今回、John Dearingたちの研究チームは、4つの陸上生態系、25の海洋生態系、13の淡水生態系の変化に関する報告から得られたデータを解析した。その結果、大規模生態系のレジームシフトが、小規模な生態系よりもゆっくり起こる傾向が分かったが、一方で、生態系の規模が大きくなるにつれて、崩壊に要する時間が長期化するペースが鈍化するため、大規模な生態系の崩壊が不相応に急速なことが明らかになった。Dearingたちは、コンピューターモデルによって裏付けられた統計的関係を用いて、アマゾン川流域(約550万平方キロメートル)の規模の生態系の崩壊過程が約49年で完了する可能性があると推定した。また、カリブ海のサンゴ礁(約2万平方キロメートル)の規模の生態系が崩壊するまでの時間は、崩壊が始まってからわずか15年ほどである可能性も明らかになった。
Dearingたちは、生態系の変化がこれまで考えられていたよりも急速に起こる可能性があり、人類がそうした変化に備える必要があるという結論を示している。
doi:10.1038/s41467-020-15029-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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