海洋生物学:イセエビが発する音は3キロメートル離れていても検出できる
Scientific Reports
2020年5月22日
ヨーロッパイセエビ(Palinurus elephas)が発する音(antennal rasp)は、水中で最大3キロメートルの範囲内で検出可能なことを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。イセエビは、目の下にある「やすり」のような組織に第二触角をこすりつけて音を発し、コミュニケーションや捕食者への対処に用いていると考えられている。この音を検出することは生物保全活動に役立つ可能性があると、今回の研究は示唆している。
今回、Youenn Jézéquelたちの研究チームは、フランスのサン=タンヌ・デュ・ポルツィック湾で24匹のイセエビが発した1560回のantennal raspを録音した。この録音は、イセエビから0.5~100メートル離れた場所に設置された8台の水中マイクロホンを用いて行われた。100メートル離れた場所で録音できたのは大型の個体が発した音だけで、中型、小型、超小型の個体については、それぞれ50、20、10メートル以上離れた場所では録音できなかった。Jézéquelたちは、この測定結果、距離に応じた音の強さの減衰予測、および実験時の背景雑音のレベルに基づいて、大型のイセエビのantennal raspが400メートルまで離れても検出可能だと推定している。また、Jézéquelたちは、背景雑音が少ない条件下であれば、最大級(体長13.5センチメートル)の個体のantennal raspは3キロメートルまで離れても検出可能だと推測している。
以上の知見は、数キロメートル離れた場所にいるイセエビの個体群の検出と調査にantennal raspを利用できることを実証している。ヨーロッパの海域に生息するヨーロッパイセエビは、数十年にわたる乱獲で個体数が非常に少なくなっており、Jézéquelたちは、この脆弱な生物種の管理を改善するために音響モニタリングなどの非侵襲的ツールが必要だと考えている。
doi:10.1038/s41598-020-64830-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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