海洋学:海洋における流れの構造が捜索救助作業に役立つかもしれない
Nature Communications
2020年5月27日
海洋における流れの構造は、海上浮遊物を一定の海域に引き寄せており、この構造を明らかにすることが、海で遭難した人々の捜索救助作業を最適化する上で役立つ可能性があるという考えを示した論文が、Nature Communications に掲載される。
現在の捜索救助作業では、海洋力学、気象予測、現場観測を組み合わせたモデルを用いて、遭難者の位置を予測する確率マップが作成される。しかし、遭難者が海中に転落した地点が不確実なことや海流の経時的変化に関する観測データが不足していることから、遭難者の位置の予測は事故後の時間の経過とともに難しさを増す。
今回、Mattia Serra、George Hallerと米国内のさまざまな研究機関に属する研究者のグループは海面データを用いて、海流の短期的な経路を規定していて海上の浮遊物が堆積する海域を明らかにする、TRansient Attracting Profile(TRAP)が存在すると予測した。この知見を検証するため、著者たちは米国マサチューセッツ州のマーサズ・ビンヤード島の南の海域で、捜索救助状況を模擬した3つの野外実験を行った。この実験で、著者たちは、マネキン人形と海上浮遊装置の一式を配置して、人が海中に転落した事例を模擬し、遭難者の位置の予測にTRAPを使えるかを見極めようとした。その結果、TRAPは、モデル化された海流速度と同様に、海流速度の観測値を用いても計算することができ、行方不明になってからの2~3時間後の目的物の最も可能性の高い現在位置を予測する上で役立つことが実証された。
著者たちは、TRAPが現行の捜索救助手法を強化し、石油流出などの環境災害に対するハザード応答に有益な情報をもたらす可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41467-020-16281-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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