生物工学:損傷したヒト肺をブタとの交差循環によって回復させる
Nature Medicine
2020年7月14日
損傷を受けたヒト肺は臓器移植には使えないとされていたが、ブタとの交差循環を行うことでこうした肺を修復できる可能性が報告された。
肺移植は末期の肺疾患患者にとっては唯一の決定的治療法だが、高品質のドナー肺の供給が不足しているため、肺移植を行える患者の数は限られている。ドナー肺の入手可能性を増やすために現在行われている方法の1つに、体外肺灌流(EVLP)がある。これは、移植の前に体外でドナー肺に酸素と栄養素を継続的に送り込んで肺の機能を支える技術だが、損傷を受けた肺をどの程度回復させられるかは、まだはっきり分かっていない。
G Vunjak-Novakovic、M Bacchettaたちの研究チームは以前に、損傷を受けたブタ肺を別のブタの循環系につなぐと、元通りの状態に修復できる可能性があることを明らかにしている。彼らは今回、同じような操作がヒト肺の修復にも使用できるかどうかを調べるために、損傷していて以前は移植に不適当とされたヒト肺5つを、肺の拒絶を防ぐためにあらかじめ免疫抑制剤を投与しておいたブタの循環系に接続した。接続してから24時間後、損傷したヒト肺は、EVLP後に移植に不適当とされていた肺1つを含め、組織の状態と機能が改善した。著者たちは、EVLPを行っても回復できず、移植に不適当とされる肺でも、この交差循環法を使うことによって、修復できる可能性があると考えている。
著者たちは、今回の方法が臨床に使えるかどうかを評価するには、肺に残存するブタの細胞や因子が、レシピエントに免疫応答を引き起こす可能性や病気を伝播する可能性を調べるなど、さらなる研究が必要だと述べている。
doi:10.1038/s41591-020-0971-8
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