ウイルス学:複数種のコロナウイルスの特性解析がもたらしたSARS-CoV-2の進化に関する手掛かり
Nature Structural & Molecular Biology
2020年7月16日
ウイルスは、スパイク糖タンパク質を介して宿主の細胞に結合し、侵入するが、このほどSARS-CoV-2とその近縁のコウモリウイルスRaTG13のスパイク糖タンパク質の構造の特性解析が行われ、その結果を報告する論文が、Nature Structural & Molecular Biologyに掲載される。こうした構造を解明すると、SARS-CoV-2のスパイクの進化過程に関する新たな情報が得られるが、ワクチン設計の手掛かりも得られると考えられている。
コウモリのコロナウイルスは、SARS-CoV-2の進化上の前駆体である可能性が高いことが確認されており、以前の研究でコウモリウイルスRaTG13がSARS-CoV-2に最も近縁なウイルスであることが突き止められた。しかし、SARS-CoV-2がどのように進化してヒトに感染するようになったのか、この進化が、中間宿主を介して起こったのか、あるいは直接伝播によって起こったのかは明らかになっていない。
今回、Antoni Wrobel、Donald Bentonたちの研究チームは、SARS-CoV-2とRaTG13のスパイク糖タンパク質を比較した。その結果、両者の構造は類似しているが、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の方が安定した構造で、ヒト受容体タンパク質ACE 2に約1000倍強く結合できることが分かった。また、SARS-CoV-2のスパイクにフリン切断部位が存在していれば、ウイルスが細胞上の受容体に結合しやすくなると考えられるため、このウイルスに有利に働く可能性のあることも明らかになった。Wrobelたちは、以上の観察結果に基づいて、RaTG13に類似したコウモリウイルスがヒト細胞に感染する可能性は低いと考えており、このことは、SARS-CoV-2が複数の異なるコロナウイルスゲノムの組換えから進化したという学説を補強している。
Wrobelたちは、今回の研究によって、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質の構造を高分解能で示すことができ、それがほぼ完全な形であり、先行研究で報告された構造よりも外部ループが多いことを指摘しており、これがワクチン設計の重要な手掛かりになるという考えを示している。
doi:10.1038/s41594-020-0468-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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