遺伝学:ENCODEプロジェクトによる調節エレメントの百科事典の充実
Nature
2020年7月30日
ENCODE(ENCyclopedia of DNA Elements:DNAエレメントの百科事典)計画の第3段階の一環として、ヒトとマウスの遺伝子を調節する候補機能エレメント120万点以上のオンラインレジストリが発表される。この知見は、Nature、Nature Methods とNature Communications に掲載される計14編の論文に記述されており、ゲノムの構成と機能を解明する新たな手掛かりとなる。
2003年に創設されたENCODE計画は、ヒトとマウスのゲノムの機能エレメント(遺伝子調節に関与する分子生成物や生化学的活性をコードするDNA領域)を網羅したマップの作成を目指している。
Nature に掲載されるZhiping Wengたちの総括論文では、ENCODE第1段階、第2段階の成果を発展させて、ヒト試料4834点とマウス試料1158点を用いて、約6000件の実験データを新たに生成したことが記述されている。第1段階、第2段階の研究のかなりの部分は、モデル細胞株を用いて実施されたが、第3段階の研究では、1369以上の生物試料源から得た503種の細胞や組織が用いられている。また、ENCODEでマップされた数百万点のエレメントのキュレーションによって、ヒトのゲノムの7.9%に当たる92万6535個、マウスのゲノムの3.4%に当たる33万9815個のシス調節エレメント(遺伝子の転写を調節するタンパク質をコードしていないDNA領域)候補のオンラインレジストリが構築された。その他の論文では、ENCODEによって得られたデータセットを用いて、これらの機能エレメントのいくつかの作用を支配する原理が明らかにされている。例えば、Michael Snyderたちの論文では、ヒトの24の細胞タイプにおけるクロマチン(DNAとタンパク質からなる複合体)の相互作用をマッピングして、細胞タイプによるクロマチンのループ形成の違いが遺伝子発現に影響を及ぼすことが報告されている。
別のいくつかの論文では、マウスを使って、哺乳類の出生前の発生段階におけるシス調節エレメントの調節的役割を調べた結果が報告されている。Nature に掲載される3編の論文には、8つの発生段階にあるマウス胎仔に関する情報が示されている。そのうちBing Renたちの論文とJoseph Eckerたちの論文では、発生中のマウスの特定の組織で活性を示す一部のエンハンサーエレメント(遺伝子の転写を促進する調節DNA配列)のヒト相同分子種が、疾患に関連する遺伝的バリアントに多く含まれていることが示されている。この知見は、ヒトの発達障害に関与する調節エレメントの研究の出発点になるかもしれない。
また、Nature に掲載されるMichael SnyderたちのPerspectiveでは、ゲノムの制御と機能を支配するエレメントがヒトゲノムに密にコードされていることが指摘されている。しかしながら、こうしたエレメントが大量に発見されたにもかかわらず、特定の細胞タイプや細胞状態に影響を及ぼす多くのエレメントが特定されていない。そのため、ENCODEの第4段階では、分析対象の細胞タイプと組織を増やすために相当な努力が払われている。
doi:10.1038/s41586-020-2493-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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