気候変動:海洋熱波による生態系の機能不全を測定する
Nature
2020年8月6日
海洋熱波は温度生息地を数十から数千キロメートル変位させる可能性があることを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この変位は、ストレスを引き起こし得る水温から逃れるために、生物が移動しなければならない距離を表している。今回の知見は、異常に温暖な海洋温度が海洋生物種に及ぼす潜在的な影響を解明するための研究に道を開く。
海洋熱波とは、海洋生態系に劇的な変化を引き起こし得る異常に温暖な海洋温度が一定期間にわたって続くことであり、その地域に生息している生物は、それまで慣れていた水温からの上昇を感じる。こうした事象に関する研究の多くは、サンゴのような生物種への局所的な影響に着目しているが、好ましい条件を見つけるために移動できる移動性生物(魚類など)を考慮に入れていない。
今回、Michael Jacoxたちの研究チームは、海洋熱波の条件下で生物種がどのように再分布を余儀なくされるのかを解明するために、1982~2019年のデータを用いて、海洋熱波に伴う熱変位を分析し、個々の生物種が海洋熱波を逃れて、好ましい水温の生息地に到達するために移動しなければならないと考えられる最小距離を計算した。この移動距離には、大きな地域差があり、温度勾配が小さい熱帯地方では、熱変位は2000キロメートルを超える可能性があるが、西岸境界流のように温度勾配が大きい地域では、変位はわずか数十キロメートルと考えられる。
Jacoxたちは、温度生息地の短期的な変位は、長期的な温暖化傾向に関連した変化に匹敵し、海洋生物種の急速な再分布を引き起こす可能性があると指摘している。
doi:10.1038/s41586-020-2534-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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