古生物学:三葉虫の生活様式の手掛かりをもたらした4億2900万年前の眼球の化石
Scientific Reports
2020年8月14日
4億2900万年前の三葉虫の眼球の化石の内部構造が、現生ミツバチの眼球の内部構造とほとんど同じであることを明らかにした論文が、Scientific Reports に掲載される。この新知見は、多くの現生昆虫や現生甲殻類の視覚の原理が、少なくとも5億年前から変わっていないことを示唆している。
今回、Brigitte SchoenemannとEuan Clarksonは、デジタル顕微鏡を用いて、1846年にロジェニツェ(チェコ共和国)近郊で発見された三葉虫 (Aulacopleura koninckii)の化石を再調査した。この化石は、高さ1~2ミリメートルで、後頭部に2つの突出した半楕円形の眼があり、そのうちの1つは脱落していた。Schoenemannたちは、この眼球の化石の内部構造のいくつかが、多くの現生昆虫や現生甲殻類の複眼の内部構造と類似していることを報告している。その1つが、個眼(直径35マイクロメートル)という視覚ユニットで、個眼には、感桿という透明な管の周りに集まった光検出細胞が含まれている。Schoenemannたちは、個々の個眼を取り囲む暗色の輪が色素細胞からできており、この色素細胞が、個眼と個眼の間の障壁として作用していたという考えを示している。個眼の上には、分厚い水晶体に加えて、Schoenemannたちが薄い円錐晶体と考える化石 があった。この円錐晶体を通過して、光が感桿に集束すると考えられる。
この個眼のサイズが小さいことから、A. koninckiiが明るい浅瀬に生息し、日中に活動していた可能性が非常に高いと示唆される。水晶体の直径が小さい方が、明るい条件下で光を効率的に集められるからだ。また、個眼と個眼の間に色素細胞の障壁が存在したことから、この三葉虫が現生の多くの昆虫や甲殻類の複眼と同様に、個々の個眼が全体像の小さな部分に寄与するモザイク視覚を有していたことが示唆されている。
以上の知見は、多くの複眼の構造と機能が、古生代(5億4200万~2億5100万年前)以降ほとんど変化していないことを示唆するとともに、古代の三葉虫の生活様式を解明する手掛かりになっている。
doi:10.1038/s41598-020-69219-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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